Case Report

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コンピュータ流体力学(CFD)を用いた微小血管吻合の血流解析

概要

自由皮弁移植などの微小血管吻合では、受容血管の選択や吻合位置・方法(血管怪差のある血管同士をつなぐなど)が、術後の血管合流性(patency)や血栓形成リスクに大きく影響します。
本研究では、血管内に露出した縫合糸が血流・壁面せん断応力(Wall Shear Stress 以下WSS)・流線の乱れ(Streamline以下SL)・ゆらぎせん断能力(Oscillatory Shear Index以下OSI)などに及ぼす影響をCFDを用いて解析しています。
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解析内容

モデル
直径2mmの血管を用いた微小血管をテーパー法で吻合したモデルを想定し、血管怪差のあるものを接続した状況を再現します。
縫合糸:直径0.03mm
刺入:10か所
血管内腔への糸の露出:高さ 0.025mm、長さ 0.115mm
 アウトフロー側には縫合糸が3本血流方向に直列配置(流れの乱れを評価するため) user friendly interface
血流条件
静脈系の拍動波形を採用
流量:最大 45.0mL/min、最小 -19.0mL/min、平均 13.0mL/min
周期: 1.0s user friendly interface
CFD計算条件
ソルバ:OpenFOAM v5.0
血液の物性:密度 1,060kg/m³、粘度 0.004 Pa•s
解析:Navier-Strokes 方程式を数値的に解いて流れ場を求める
可視化・解析指標
流線(SL):流れの経路・乱れの有無を評価
壁せん断応力(WSS):血管壁に作用するせん断応力
ゆらぎせん断指数(OSI):WSSの方向変化・乱れの程度を定量化

解析結果

1.流線(SL)
 全体の流れはほとんど直線的で、吻合部を通過しても大きな乱れは生じませんでした。しかし、アウトフロー側に直列に配置された3本の縫合糸の付近で、局所的な流線の乱れが観察されました。 user friendly interface
2.壁せん断応力(WSS)
 内腔に突き出た縫合糸のピーク(先端)部分、血流が最も速くなる0.14秒付近で最大WSSである13.37Paが確認されました。これは、血流が障害物に接触することで局所的に応力が集中する形になるためです。 user friendly interface
3.ゆらぎせん断指数(OSI)
 アウトフロー側の縫合糸の基部(糸の根本)で局所最大値0.182が確認されました。OSIが高いということは、WSSの方向が1心拍中に大きく揺らいでいる(=流れが不安定)であることを示しており、縫合糸の根元部分で逆流や渦が生じて血栓形成リスクが高まる可能性を示唆しています。 user friendly interface

考察

 同部位の血栓リスクは低いと考えられます。しかし、縫合糸の基部ではOSIが高値を示し、これは酸化ストレスや内皮障害を通じて血栓形成のリスクの上昇と関連するため、基部が血栓形成の起点となり得る可能性が示唆されます。そのため、微小血管縫合においては、縫合糸を過度に露出させず、締めすぎず、結び目を確実に締めることが、流れの乱れを抑え血栓リスクを低減するうえで重要であることを確認しました。
 しかし、CFD解析には、モデル化の前提、血液の非ニュートン性、血管壁の弾性などの限界があるため、今後は実臨床データを併用し精度向上を図る必要があります。
Reference
Yagi, S., Sasaki, T., Fukuhara, T., Fujii, K., Morita, M., Suyama, Y., Fukuoka, K., Nishino, T., & Hisatome, I. (2020). Hemodynamic Analysis of a Microanastomosis Using Computational Fluid Dynamics. Yonago Acta Medica, 63(4), 308–312.
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急性大動脈解離に対するフローズン・エレファント・トランク術(FET)における偽腔の負のリモデリング予測に関する血行動態指標

概要

急性大動脈解離に対するフローズン・エレファント・トランク術(FET)後、下行大動脈の偽腔(FL)が縮小せず、むしろ拡大する「負のリモデリング」が、再手術や追加治療のリスクを高める重要な問題である。
従来はCTによる形態評価が中心であったが、血流の機能的側面が偽腔のリモデリングにどのように関与しているかは十分に解明されていなかった。
本研究では、4D Flow MRIを用いてFET術後の偽腔内血流動態を解析し、偽腔拡大(負のリモデリング)を予測しうる血行動態指標を明らかにすることを目的としている。
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対象・研究デザイン

対象
・急性大動脈解離に対してFET手術を施行した患者
・術後に偽腔が開存または部分血栓化している症例を対象

研究デザイン
・単施設・後ろ向き観察研究
・術後3ヶ月以内に4D Flow MRIを実施

負の偽腔リモデリングの定義
フォローアップCTにより偽腔体積が10%以上増加

血行動態解析(4D Flow MRI)
・FET遠位側の下行大動脈における偽腔血流を評価
・心拍周期全体を通じて以下を解析:偽腔内の順行性・偽腔血流を評価
・特に、1心拍中の偽腔血流量の最大値と最小値の差を指標として算出:偽腔内血流の「ゆらぎ」や双方向性を指標

解析結果

・最終解析対象33例中、6例で負の偽腔リモデリングが認められた。
また、負のリモデリングを示さない症例では、偽腔の体積が縮小し、真腔体積は増加または安定を示した
偽腔血流パターン
・多くの症例で、偽腔血流は縮小期に二相性を示した。特徴的に順行性血流が出現し、その後逆光性成分が出現した
・この二相性血流は、偽腔内での血流の不安定性を示唆している
血行動態指標とリモデリングの関連性
・負の偽腔リモデリングを示した症例は、偽腔血流量のpeak-nadir-rangeが有意に大きかった
・Peak-nadir-rande(1心拍周期における血流量の最大値と最小値の差)は、偽腔体積増加率と正の相関を示し、偽腔内血流のゆらぎが大きいほど、偽腔が拡大しやすいことが示された

考察

 FET術後に偽腔内で持続する双方向性・ゆらぎの大きい血流は、偽腔内血栓形成の妨げ・偽腔の開存・拡大を経て負のモデリングにつながる可能性がある。
 特に、Peak-nadir rangeは、血流の方向変化・振り幅を単純に定量化でき、CTによる形態評価では捉えられない機能的リスク指標として有用である可能性が示唆された。
4D Flow MRIによる血行動態評価は、放射線被ばくや造影剤を必要とせず、将来的に、追加TEVARなどの介入が必要な高リスク症例の選別に役立つ可能性がある。

結論

 FET術後の偽腔血流は収縮期に二相性を示すことが多く、偽腔血流量のPeak-nadir rangeは偽腔拡大及び負のリモデリングを予測しうる結構動態指標である可能性が示され
Reference
Takei, Y., Miyazaki, S., Suzuki, K., Saito, S., Oogaki, H., Muraoka, Y., Ogasawara, T., Tezuka, M., Shibasaki, I., & Fukuda, H. (2024). Hemodynamic predictors of negative false lumen remodeling after frozen elephant trunk for acute aortic dissection. General Thoracic and Cardiovascular Surgery, 72(6), 376–386.

冠動脈端側吻合における狭窄病変の数値流体力学シミュレーション

目的

 端側吻合は冠動脈バイパス術で一般的に用いられるが、縫合が過度に締め付けられると吻合部が狭窄する可能性がある。本研究では、さまざまな程度の吻合部狭窄を比較し、血行動態への影響を予測するため、ex vivo の端側吻合モデルに対して数値流体力学シミュレーションを行った。
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研究方法

ブタ心臓の左前下行枝に対し、頸動脈を端側吻合で移植し、血管内に液体シリコンを注入した。端側吻合部の画像は多列検出器CTにより取得し、これを基準モデルとした。さらに、吻合部の縦方向短縮および両側性狭窄を再現したモデルを作成し、ネイティブ冠動脈における狭窄率を 25%、50%、75%、90%、100% に設定した。数値流体力学シミュレーションを用いて、流線、壁せん断応力、振動せん断指数(oscillatory shear index:OSI)を算出し、血行動態を解析した

解析結果

基準モデルでは、グラフトからの流入血流がネイティブ冠動脈の底部に衝突し、再循環渦が形成され、ヒール付近に高い振動せん断指数の領域が認められた。縦方向狭窄が進行するとグラフト血流角度が増大し、両側性狭窄ではネイティブ冠動脈の外側壁付近に螺旋状血流が生じ、その程度は狭窄の増加とともに悪化した。狭窄率 75% では、縦方向短縮および両側性狭窄のいずれにおいても異常な血流剥離が生じ、吻合部トウの遠位側に低壁せん断応力および高振動領域が形成された。

結論

 数値流体力学モデリングにより、端側吻合において縦方向または両側性狭窄が 75% に達すると、内膜肥厚によるグラフト不全のリスクが高いことが予測された。一方、吻合部狭窄が 50% 未満であれば、血行動態は許容範囲内であると考えられる。今後は、手術手技が最適でない吻合構築における長期臨床転帰について検討する必要がある。
Reference
Kamiya, K., Terada, S., Nagatani, Y., Matsubayashi, Y., Suzuki, K., Miyazaki, S., Matsui, H., Takano, S., Nakata, S., Watanabe, Y., & Suzuki, T. (2025). Computational fluid dynamics to simulate stenotic lesions in coronary end-to-side anastomosis. Interdisciplinary CardioVascular and Thoracic Surgery, 40(2), ivaf013.

前向き肺動脈血流を伴う上大静脈―右肺動脈吻合に対する数値流体力学解析

概要

本報告は、前向き肺動脈血流を制限した上大静脈―右肺動脈(SVC–RPA)吻合術後の乳児症例について、数値流体力学(CFD)解析を用いて血行動態を評価したものである。残存する右肺動脈狭窄により前向き肺動脈血流が制限され、SVCにおける壁せん断応力およびエネルギー損失が低下するという良好な血行動態が示された。
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症例

症例は1歳男児で、心室中隔欠損、心房中隔欠損、三尖弁低形成、および正常の約50%の大きさの小右室を有していた。SVC–RPA吻合、心室中隔欠損および心房中隔欠損閉鎖、肺動脈デバンディングを施行した。先行する肺動脈バンディングによる近位右肺動脈狭窄は、SVC血流と前向き肺動脈血流の競合を避ける目的で温存された。

分析方法

術後10か月時点で、画像データに基づく患者特異的CFD解析を行い、血流の流線、壁せん断応力、血流停滞、エネルギー損失などの詳細な血行動態評価を実施した。

結果

主肺動脈、左肺動脈、および近位右肺動脈では乱流および比較的高い壁せん断応力が認められた一方、SVCおよび遠位右肺動脈では平滑な層流、低壁せん断応力、血流停滞の最小化、低エネルギー損失が観察された。SVCおよび主肺動脈からの血流は競合することなく両肺へ分配され、バランスの取れた肺血流が維持されていた。
Reference
Sumitomo, N. F., Kodo, K., Oyanagi, T., Kimura, N., & Yamagishi, H. (2024). Computed Fluid Dynamics Analysis for SVC-to-RPA Anastomosis With Antegrade Pulmonary Flow. JACC: Case Reports, 29(8), Article 102263.

全弓部置換術後に過度に屈曲した人工血管により生じた溶血性貧血に対する4D flow MRIの有用性

概要

大動脈手術後の溶血性貧血はまれな合併症であり、人工血管の過度な屈曲によって生じる異常血流が原因となることがある。
従来のCTでは形態異常の評価は可能であるが、どの病変が実際に溶血を引き起こしているかの機能的評価は困難であった。
本症例報告では、4D flow MRIを用いて異常血流と粘性エネルギー損失(viscous energy loss:VEL)を評価し、溶血性貧血の原因部位を同定し、低侵襲な再手術方針決定に寄与した症例を報告している。
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症例

・70歳女性。
・5年前に急性Stanford A型大動脈解離に対してFrozen Elephant Trunk(FET)を用いた全弓部置換術を施行。
・めまいと全身倦怠感を主訴に受診し、検査所見より溶血性貧血と診断された。

画像・血行動態評価

CT所見
上行大動脈人工血管および頸部分枝起始部に複数の屈曲を認めたが、溶血の責任病変は特定困難であった。 user friendly interface
4D flow MRI解析
非造影4D flow MRIを用いて大動脈全体の血流を評価した。上行大動脈人工血管の屈曲部で、加速した渦流および局所的に著明な粘性エネルギー損失(VEL)の上昇を認めた。一方、頸部分枝ではVELは低値であった。 user friendly interface

結果

主肺動脈、左肺動脈、および近位右肺動脈では乱流および比較的高い壁せん断応力が認められた一方、SVCおよび遠位右肺動脈では平滑な層流、低壁せん断応力、血流停滞の最小化、低エネルギー損失が観察された。SVCおよび主肺動脈からの血流は競合することなく両肺へ分配され、バランスの取れた肺血流が維持されていた。
Reference
Takei, Y., Shibasaki, I., Suzuki, K., Miyazaki, S., Hirota, S., Ohashi, H., Saito, S., & Fukuda, H. (2022). Hemolytic anemia caused by an excessively kinked prosthetic graft after total arch replacement detected by 4-dimensional flow magnetic resonance imaging: A case report. Medicine, 101(29), e29617.

大動脈弁狭窄症評価における心臓CTの発展

概要

大動脈弁狭窄症(AS)は左室に高度な後負荷を与える重篤な弁膜症であり、高齢化に伴い患者数は増加している。近年、TAVIの普及により治療選択肢が拡大し、術前・術後の詳細な評価の重要性が高まっている。
本総説では、検出器列数の増加、高速回転、再構成法、dual-energy技術などの進歩によって拡張した心臓CTの役割について、AS評価を中心に概説している。
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疾患背景と治療の進歩

ASは未治療の場合、失神・狭心症・心不全・突然死に至る可能性がある。従来は外科的大動脈弁置換術(SAVR)が標準治療であったが、TAVIの登場により高齢者や高リスク症例にも治療が可能となった。一方、若年者では弁耐久性を考慮した慎重な治療選択が求められる。

画像・血行動態評価

心臓CTの基本的役割
上心臓CTは冠動脈評価に加え、大動脈弁の形態、石灰化、弁輪径、左室機能まで包括的に評価可能となっている。非造影CTによる弁石灰化スコアは、心エコーで重症度判定が困難な症例において有用である。 user friendly interface
モーション補正と石灰化評価
大動脈弁は高速に運動するため、従来のCTではモーションアーチファクトが問題であった。第2世代モーション補正アルゴリズムにより、弁石灰化スコアや弁輪径計測の精度が大きく向上した。 user friendly interface
先天性異常・二尖弁評価
若年AS患者では二尖大動脈弁が多く、CTは弁尖形態やSievers分類、合併する大動脈拡張や大動脈縮窄の評価に有用である。 user friendly interface
心筋障害・ECV解析
近年、遅延造影CTや左室ECV解析により、心筋線維化の定量評価が可能となった。術前ECV高値は、TAVI後の予後不良と関連する可能性が示されている。 user friendly interface
CTによる心機能・ストレイン解析
全心拍同期撮影と解析ソフトの進歩により、CTでも左室駆出率やグローバル縦方向ストレイン(GLS)の評価が可能となり、予後予測指標としての有用性が示されている。 user friendly interface
TAVI前後評価と血流解析
CTはTAVI前の弁サイズ選択、アクセスルート評価、冠動脈閉塞リスク評価に不可欠である。さらに、CT画像を用いたCFD解析により、術後弁血栓リスクの評価も可能となりつつある。 user friendly interface

まとめ

心臓CTは、形態評価から機能・血行動態評価までカバーする包括的モダリティへと進化している。放射線被ばく低減技術の進歩により、AS診療における臨床的価値は今後さらに高まると考えられる。

結論

AS診療において、心臓CTは年齢や治療戦略を問わず重要な役割を担っており、臨床医はその技術的進歩と適切な活用を十分に理解する必要がある。
Reference
Takaoka, H., Sasaki, H., Ota, J., Noguchi, Y., Matsumoto, M., Yoshida, K., Suzuki, K., Aoki, S., Yashima, S., & Kinoshita, M. (2025). Development of cardiac computed tomography for evaluation of aortic valve stenosis. Tomography, 11(6), 62.

左房縫縮術後左心房内血流の計算流体力学的解析に関する前向き検討

目的

拡大した左房(LA)における血流停滞を評価し、左房縫縮術(left atrial plication:LAP)が血流停滞を改善するかを検証することを目的とした。
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対象・研究デザイン

対象
慢性心房細動を有し、左房径60mm以上の左房拡大に対して僧帽弁手術およびLAPを施行した5例。
研究デザイン・解析方法
術前・術後CTおよび4D flow MRIを用いて、計算流体力学(CFD)解析を実施した。
また、コンピュータグラフィックスを用いて仮想的左心耳切除(virtual LAAR)モデルを作成した。

血行動態解析

以下の3群において、左房内血流停滞をCFD解析で評価した。
1. 術前(Preoperative)
2. 仮想左心耳切除(LAAR)
3. 左房縫縮術(LAP)

結果

術前の平均および定常血流停滞量を100とした場合、
平均停滞量
- LAAR群:67.42 ± 18.64
- LAP群:35.88 ± 8.20
定常停滞量
- LAAR群:45.01 ± 7.43
- LAP群:21.14 ± 7.70
LAP群は、LAAR群と比較して平均停滞量および定常停滞量が有意に低値であった(平均:p = 0.006、定常:p = 0.033)。

考察

血流停滞は左心耳および拡大した左房全体に認められた。CFD解析により、左房縫縮術は仮想左心耳切除単独よりも、左房内血流停滞をより効果的に改善することが示された。

結論

拡大左房における血流停滞は、左房縫縮術によって有意に改善され、LAPは左房血流停滞低減に有効な手技である可能性が示された。
Reference
Enomoto, T., Mishima, T., & Tsuchida, M. (2024). Blood flow analysis with computational fluid dynamics in the left atrium after left atrial plication: A prospective study. General Thoracic and Cardiovascular Surgery, 72(4), 209–215.